人は「聞いてもらえた」と感じた相手を信頼する
部下との1on1を終えたあと、
「今日はちゃんと話を聞けただろうか」
と振り返ったことはないでしょうか。
アドバイスはした。
指示も出した。
必要なことも伝えた。
それなのに、相手の表情がどこか晴れない。
そんな違和感を抱えたまま、次の業務に戻る管理職の方は、決して少なくないように感じます。
管理職やリーダーは、部下のためを思って話をします。
だからこそ、相談を受けると「何とかしてあげたい」「早く答えを出してあげたい」と考えます。
しかし、信頼関係を築くうえで大切なのは、正しいアドバイスを返すことだけではありません。
むしろ、部下が
「自分の話をちゃんと聞いてもらえた」
と感じられるかどうか。
ここに、信頼関係の土台があります。
信頼される上司は、まず話を受け止めている
人は、
「正しいことを言ってくれた相手」
よりも、
「自分の話を聞いてくれた相手」
を信頼するものです。
なぜなら、聞いてもらえたという実感は、
「自分の存在が受け止められている」
という安心につながるからです。
たとえば、部下が悩みを話している途中で、
「それは考えすぎだよ」
「まずはこうすればいい」
「前にも同じことがあったよね」
「結論から言うと……」
と返してしまう。
上司としては、良かれと思って言っているのかもしれません。
実際、その助言が正しい場合もあります。
しかし、部下の側からすると、
「まだ話し終えていないのに」
「分かってもらう前に判断された」
「結局、こちらの話より上司の結論が優先されるんだ」
と感じてしまうことがあります。
この小さなすれ違いが積み重なると、部下は少しずつ本音を出さなくなっていきます。
相談が来なくなることは、組織にとって大きな損失
リーダーの立場にあると、つい
「答えを返さなければ」
という意識が働きます。
部下が相談に来た瞬間から、頭の中では解決策を組み立て始めている。
これは責任感の表れでもあります。
決して悪いことではありません。
ただし、相手がまだ話し終えていないうちに助言モードに入ってしまうと、部下は
「この人は、もう私の話を聞く気がない」
と感じてしまうことがあります。
すると、次から本音を持ち込まなくなります。
報告は上がってくるけれど、相談は来ない。
問題が大きくなってから、ようやく共有される。
小さな違和感や不安が、現場の中に溜まっていく。
これは、組織運営にとってかなり大きな損失です。
部下から相談が来る状態とは、単に仲が良いということではありません。
問題が小さいうちに共有される。
不安が溜まり切る前に声が上がる。
現場の違和感を早めに察知できる。
つまり、信頼関係は組織のリスク管理にもつながっているのです。
傾聴は「黙って聞くこと」ではない
一方で、傾聴という言葉を
「黙って聞くこと」
と捉えてしまうケースもあります。
もちろん、相手の話を遮らないことは大切です。
ただ、ただ黙っていればよいわけではありません。
相づちの打ち方。
表情。
うなずき。
相手の言葉を受けて返す一言。
続きを促す問いかけ。
こうした小さな反応の積み重ねが、
「聞いてもらえた」
という感覚を作り出しています。
たとえば、
「なるほど」
「それは大変でしたね」
「もう少し詳しく聞かせてもらえますか」
「そのとき、どう感じましたか」
「そこが引っかかっていたんですね」
こうした一言があるだけで、相手は話しやすくなります。
傾聴とは、地蔵のように黙って座っていることではありません。
相手の話を受け止めながら、きちんと反応を返すことです。
聞く時間の長さより、聞く姿勢の質が大切
リーダーが意識すべきなのは、聞く「時間の長さ」だけではありません。
大切なのは、聞く「姿勢の質」です。
一言で言えば、
相手が話している間、自分の頭の中を相手の話で満たせているかどうか。
これに尽きると思います。
相手が話しているのに、こちらの頭の中では、
「このあと何を言おうか」
「どう指導しようか」
「原因はどこか」
「自分の経験で言うと……」
と考えている。
これでは、表面上は聞いていても、相手にはどこか伝わってしまいます。
人は、自分の話が本当に届いているかどうかを、思っている以上に敏感に感じ取っています。
だからこそ、聞く姿勢とは、単なるテクニックではありません。
相手を理解しようとする態度そのものです。
信頼は日々の会話の中で積み上がる
組織を動かす力は、指示の精度だけで生まれるものではありません。
私は、信頼の総量から生まれるものだと感じています。
そして信頼は、評価面談や1on1のような特別な場だけで築かれるものではありません。
むしろ、日々の何気ない会話の中で、少しずつ積み上がっていきます。
朝の一言。
仕事終わりの雑談。
相談を受けたときの反応。
ミスが起きたときの受け止め方。
そうした一つひとつが、
「この人には話しても大丈夫だ」
という感覚をつくっていきます。
この感覚がある職場では、問題が小さいうちに共有されやすくなります。
反対に、この感覚がない職場では、社員は本音を隠し、表面的な報告だけで済ませるようになります。
その違いは、時間が経つほど大きくなっていきます。
まずは最初の30秒、口を挟まずに聞いてみる
では、明日から何を意識すればよいのでしょうか。
まずは、部下が話し始めたら、最初の30秒だけでいいので、口を挟まずに最後まで聞いてみてください。
すぐに助言しない。
すぐに評価しない。
すぐに結論へ持っていかない。
そして、相手が一度話し終えたら、
「それで、どうなったの?」
と続きを促す一言を添えてみる。
それだけで、相手の表情が少し変わるかもしれません。
信頼は、大きな言葉で一気に生まれるものではありません。
「聞いてもらえた」
という小さな安心の積み重ねによって、少しずつ育っていくものです。
その積み重ねこそが、組織を動かす信頼を生み出していくのです。
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岩出 優(いわでゆう)
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